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新型出生前診断と看護師の役割

新型出生前診断がはじまって1年を迎えます。この検査に関しては、様々な論議が多方面で行われており医療従事者、特に産科の関係者の話題の的であると言っても過言ではありません。

新型出生前診断という言葉は、実はマスコミが作り上げた言葉であって、正式には無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)という名称になります。保険適用ではないので、費用は検査を受ける妊婦が10割を負担して約21万円です。

この新型出生前診断は胎児の異常について確定診断を行うためのものですが、それまで行われていた羊水穿刺と比較すると、ずいぶんと簡単にできるようになりました。羊水穿刺は、母体のお腹に専用の針を刺して子宮内の羊水を採取するため、妊婦の心身にかかるストレスは非常に大きなものでした。

しかしながら、このNIPTは採血だけで診断が可能なため、その手軽さから開始時の予想をはるかに上回る妊婦が検査を受けている状況です。

ただ、診断を受ける側は検査の結果によっては、我が子の生死を選別する意思決定をせざるを得ないため妊婦は大変なストレスにさらされ、診断時にパニックを起こしてしまうケースもあります。

先ごろ、信濃毎日新聞社が出生前診断と人工妊娠中絶の実態を調べるために全国の2877医療施設を対象にアンケートを行いました。

結果、診断を行っている施設で妊婦に医学的な情報を提供しつつ意思決定を助けるカウンセリングを実施しているのは74%にあたる243施設、中絶を行う施設の中では53%ににあたる217施設に留まっていることが分かりました。さらには、出生前診断では74%が遺伝カウンセリングの専門資格を持っていない者がカウンセリングにあたっていました。

つまり、妊婦を支えるためのカウンセリング体制が十分ではないのに、診断だけが先行している現状が浮き彫りになったのです。

新型出生前診断は、そもそも妊娠を継続するリスクの高い妊婦を対象とした検査です。やっとのことで妊娠できた妊婦が胎児の異常を知らされた場合、その精神的負担は計り知れません

そこに立ち会う看護師はその妊婦の心情や背景を理解していなければなりません。また、妊婦本人の気持ちより家族の意志が優先されるケースも少なくありません。どんな結果が出ても産みたい妊婦に中絶を迫る夫や家族は非常に多く、そこで家族間の信頼関係が崩れていくのです。

妊娠・出産は、妊婦だけの問題ではありません。特にこの新型出生前診断に関しては、妊婦だけにケアを行うだけでなく家族全体のケアが必要だと考えられます。遺伝子カウンセリングはもちろん、カルガリーモデルなどの家族療法の導入が考えられますが、まずは訪問看護ステーションなどと連携して家族へのケアを行う必要があるでしょう。

今日の部屋持ち:いずみん

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